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(燃えろ、燃えろ。血潮は深紅。)

 暗闇の中手探りで戸を開ける。
 血の臭気でくらくらするようだった。
「……ああ」
 死んでいる。何人? わからないけどとにかく沢山。折り重なって死んでいる。
 灯りが室の奥でちらついている。とりあえず灯りをとろう。死体の頭を踏まないように足をあげる。
「…っ!!」
 背中に殺気。すんでのところでかわす。誰だ。
 目を凝らす。暗くてよく見えない。相手は再び剣を振るう。こちらも剣を抜く。振りかぶる。
 そのとき、明かりが相手の顔に差した。

「あ」


「あーここ風が気持ちいいかも。気持ちいいー。なあっ」
「んだよ、タイタニックなら一人でやってろ」
 ちっがうよー、あははと妙な笑い声が聞こえた。
 なんであいつはあんなに明るいのでしょうか。躁病か。
 昼休みである。なぜ俺はこいつと屋上でつるんでいるのか。春花は友達と遊んでいる。こいつだってそっちに行けばいいのに。
 ぼーっと空を眺めていると、三津屋が隣りにやってきた。
「お前顔色悪いぞ。どうした」
「……寝不足」
「まじで。じゃあ」
 といって三津屋は道尋の襟首を掴み仰向けに引き倒した。
「なに、すんだよ」
「寝不足の解消法に寝る意外のことはないさ」
 それからにぃと笑って、ほんとは膝貸してやりたいが野郎の膝枕は勘弁だろ、と付け加えた。
 反発するのもだるくて俺は言いなりになる。空は青。天辺にいくほど色濃くなっていく。柔らかい風が吹いていた。
 ああ。
「……夢を、みたんだ」
「夢?」
「嫌な夢だった。昔のことのような。それで気付いた。思い出せないことがあるんだ」
 鼻にのぼる血の臭気。一度言い始めると止まらなかった。
「なあ、『俺たち』はいつ、死んだんだ」
 ――言わないほうがいいことだとはわかっていた。
 おれは知らないと隆は言った。淡々とした声であった。ここからでは顔も見えなかった。
 校庭の騒がしい声もいつのまにか消えていた。静寂。もう誰の声も聞こえなかった。いっそ眠ってしまおうか。けれどあの夢を思い出してそんな気は失せた。
 俺は立ちあがった。三津屋と目が合う。俺は即座に目をそらした。
「中入るぞ、授業が始まる」
 二人は屋上を後にする。振り返った空は曇りだしていた。
 ドアを閉めながら俺は思う。三津屋は悲しそうな顔をしていた。心から申し訳なかった。
 言うつもりはあまりなかったのに。




 校舎内はざわざわしていた。嵐の前のように。
「どうしたんだ…」
 隆は眉をひそめた。
 皆昼休みだと言うのに肩を寄せ合ってひそひそと。断片が耳に入った。
 一年の。頭。階段。二階の。女の子。落ち。
 嫌な予感がした。
 俺は走り出す。待て! と言う声も無視した。囁き声が耳を満たす。ざわざわ、ざわざわ。狂騒。
 廊下を曲がると白衣が見えた。あれは、保険医の。
 教室に程近い階段の下俺は立ち尽くす。
「―――し、」
 叫んだのは三津屋だった。
「春花ッ!!」










忘れたとは言わせない










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