はじめて出会ったのは風吹き荒ぶ春の日のことだった。
 色付いた花弁が散って叩き付けるように舞う朝。
 新しい学校はやはり憂鬱で校門まで辿り着けず桜の根元にへたりこんだ。
 いくらなんでも、と思った。いくらなんでも入学式からこれはないだろう。一応自分で決めた学校なんだし。
 前途が思いやられていよいよ項垂れた。ついでに花びらまで大量に降ってきた。どさっと。
「……あーなんだよ何でこんなに落ちてくるんだよ俺が悪いのか俺が悪いのか、って……なんだぁ?」
 見上げると上のほうでがさがさと音がしている。それに合わせて花が降ってきていた。
 なにか、人の声が聞こえた。
「うわ、やっ、いぎゃ…っ」 
 目を凝らすと人影が見えた。なんていうか……落ちそう。
「え、ちょ、ちょっと、うわあっっ!?」
 慌てた声と共に、人影はぐらりと傾ぎ、
 どがっ、という重たい音をさせて、
 女の子が、降ってきた。
「ううう……。びっくりしたぁ。って、あれ……?」
 下を見る。彼女は自分の下敷きにしてるものを見て顔色を失った。
 つまり、俺を。
「あ、わ、わたっ、ごごごめんなさいっ…!」
 俺はなんとか起き上がると憔悴する彼女に手を振った。幸い無傷。
「いいって。それよりそっちは。怪我してない?」
「お、おかげさまで…」
 よほど恥ずかしかったのか、赤くなりつつも俺を見て、あ、と言った。
「あ、あなたも西浦の人?新入生?」
 そうだけど、と頷くと、彼女は今までとは打って変わって笑顔になった。
「私もなんだ。よかった。知り合い居ないから緊張しちゃって。…うわっもう入学式始まっちゃうよ。早くいこ!」
 すぐに彼女は立ち上がろうとして、けれど思い直したようにまた地べたに座った。
「えーっと、初井春花といいます。春の花でシュンカ。あなたは?」
「……高橋、道尋」
 それから君は「はじめまして」と、桜花にまみれて笑って言った。
 その時のことは今でも思い出す。
 今なら言ってもいいだろうか。
 あのとき君に出会わなかったら俺は結局入学式にも行かずそのままずるずると学校を休みつづけただろう。そして時間を無為に浪費していただろう。いくら感謝しても足りないんだ。
 君は笑うだろうけれども、春花、桜の花弁とともに舞い降りてきた君は、俺にとってはまるで天使。
 だから。



 はじめて出会ったのは茹だるような暑い夏の日のことだった。
 あかい血が蒸発して絡み付くように漂う昼下がり。
 敵も味方も折り重なった、その向こうからひょこりと現れて。
 たぶん「はじめまして」と、そんなことを言われた気がする。
 覚えてないのならそれでいいと思う。










「はじめまして」









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