春花が目を覚ますと辺り一面雪景色だった。
 ここはどこだろう、まずそう思った。
 白、白、白。白い空間が広がるばかりで他には何も見当たらない。ただ雪の降るばかりである。

 少し、不安になった。

 立ち上がろうとすると、何かに足を取られて転んだ。
 おかしいな、何も無いはずなのに。
 手で探ると布だった。なんだろう、と小首を傾げて雪を払いのけた。
 人だった。
 もう一度払うともう一人出てきた。もう一度、もういちど。二人の上に積もる雪を振り払う。
 やめて! と春花は叫んだ。しかしそれはひゅうという息の音にしかならなかった。
 声は出ない、手は止まらない。二人の人間の姿はだんだんはっきりと現れてくる。
 手は遂に顔とおぼしき辺りまで伸びた。既に感覚の無いてのひらが雪を掻き分けた。
 目を閉じることも出来なかった。
 冷たい雪の中に横たわっていたのは道尋と隆だった。
 春花はおそるおそる二人を揺り起こした。しかし二人は目覚めない。
 顔は真白い身体は冷たい。白、白、白。白い世界で色彩を持つのは春花の冷え切ったい手だけで――――。
 あれ?
 春花は目をしばたかせた。よく見ればいのは手だけでなく、道尋と隆の服も所々かった。そしてそのはだんだんと広がっていく。
 白をも染めてなお遠くまで。
   世界は真赤に染まっていく。    二人を汚していく、このは、てのひらからしたたり落ちる、やけにあたたかな真赤はなあに…………?





 春花が目を覚ますとそこは真白の病室だった。
 だれもいない。ただざわついた静寂が響くところ。
 道尋と隆がどこかへ行ってしまったらしい。見舞いに来たクラスメートが言っていたのを思い出す。
 どうしてあんな夢を見たのだろう。二人はどこへ行ったのだろう。
 あの、真赤。

 少し、不安になった。

 そうして春花は目を閉じて、再び眠りに引き摺られていった。










色付き










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